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市議団の実績

「阪神港の国際競争力強化に関する意見書」への

下田議員の反対討論

下田敏人市会議員

2010年3月26日

 私は、日本共産党大阪市会議員団を代表して、ただいま上程された議員提出議案第17号「阪神港の国際競争力強化に関する意見書」案についての見解を申し述べたいと思います。

 周知のように90年代、国交省は、アメリカの公共投資拡大要請に応える意味もあって、全国各地に「船のこない港」「100億円の釣り堀」などと揶揄されるようなムダな港湾整備を進めて参りまして、これが、補助率50%という事もあって、地方にとって大変な財政負担となってきた事は、言うまでもありません。

 しかしながら、一方で、地方で発生し、あるいは消費する貨物は、地方の港から出入りさせるという事で、いわゆるモーダルシフト、トラック輸送を減らして環境に資する役割を果たした事も事実であります。ところが、その事が比較的広い範囲から貨物を集めて、北米等基幹航路を就航させてきた、一部大都市部の港湾の、取扱貨物量の減となって現出したのでありまして、特に神戸港は震災の打撃もあって大きくその相対的地位を低下させたのであります。

 震災前、'94年の外貿コンテナ貨物の取扱量は、大阪港1300万トンに対し、神戸港は4200万トンと3倍の量を誇っていたのでありますが、震災によって半減し、以後、少しもち直したものの、'08年、3400万トンと今だ、'94年の貨物量までには回復しておりません。

 ただ、この間、一部神戸からシフトした大阪港の取扱量が2.3倍と大きな伸びを見せ、阪神港の合計では、震災前と比べ、1千万トン、1.2倍の増となっている事も見ておかなくてはならないと思います。

 いずれにしても、国交省の言うように、日本の主要港湾が中国等のめざましい経済発展に伴って、伸長著しい上海や、釜山等に大きく水をあけられた格好になったことは、否定できないところでありますが、それも、一に後背地の経済の反映であり、そしてトランシップ、つまり中継貨物の比重の大きい釜山などは、中国東北部等に近接している事、アジア・中国からの北米等の定期航路に位置している事など、地政学的な有利さを生かしたものでありますが、ともかく、こういう日本の主要港湾の相対的地位の低下に危機感を持ったというか、それをあおったというか、'04年に立ち上げたのが、いわゆるスーパー中枢港湾だったのであります。

 国交省は、これを境に、地方から大都市港湾優先にカジを切って、釜山などに負けない国際競争力をもつ事を目標に、全国数ヶ所の主要な港湾を指定して、水深16m、バース延長400m、奥行500m、大水深高規格のコンテナターミナルの建設を推進すると同時に、荷役コスト等の3割の低減をはかる事などを掲げたのであります。

 そうして、埠頭公社にみられるように、使用料等で整備する方式から、税を投入して基本的に港湾整備を行うという、言わば公設方式に改めて、京浜港、伊勢湾、阪神港の三大港湾に、重点的にこの7年間、5123億円が国費等から投入されてまいりました。

 大阪港では、夢洲C12が国直轄事業として建設されて、昨年10月にC10、11、12の3バース一体使用の名目で、供用開始されたのでありますが、コンテナ取扱個数、年70万teu程度と目標に達しない事もあって、コスト低減など所期の目的を達成しておりません。そして、何より就航している船が中国航路中心の小型の船舶であって、水深16mもの岸壁は不必要であったことが、明らかになっているのであります。そして、何より、立派な港をつくれば船が増え、貨物がふえるなどというのは妄想にすぎないことがはっきりしたのであります。

 又、神戸においても、ポートアイランドのいわゆるPC18が、−15mから−16mに浚渫されたのに続いて、PC16、17の同じく−16mへの浚渫工事が始まろうとするところでありますが、この2つのバースには、現実に入る船がないのであります。

 尚、神戸には広島や徳山下松など、瀬戸内諸港から北米など基幹航路に中継する、いわゆる内航フィーダーがスーパー中枢港湾の一環として、又、釜山などへのトランシップ貨物を取り戻す、一方策として既に推進されているのであります。

 こういうスーパー中枢港湾の、充分な総括もなされないまま、国交省は今度は更に1、2の港湾に絞って、国際競争力の一層の強化を目的に選択と集中により、貨物の集約をはかるとして、水深18mの埠頭整備などを柱とする、国際コンテナ戦略港湾を打ち上げたのであります。

 国土交通省は、この2月12日発表した「国際コンテナ戦略港湾の目指すべき姿」という文書の中で、「アジア諸国の成長を取り込み」「我が国経済の底上げを図る必要があり」「そのためにも、低コスト、スピーディな輸送ネットワークを構築する事」だと強調した上、「欧米など基幹航路の維持強化をめざす」としているのでありますが、しかしながら、そもそも、日本経済がリーマンショック以来、他の国と比べ、最も落ち込みが大きかったのは、余りにもアメリカなどの外需依存の体質であった上に、企業ダム論で、企業がもうかればそのうち国民にも回ってくる式の経済運営も手伝って、極めてぜい弱な経済構造となっていたからであって、経済の底上げを言うなら、今厳しい状況に立たされている、もの作りの担い手、中小製造業への支援を強化することであり、何より、国民の消費購買力を高めて、内需の喚起、拡大をはかることではありませんか。

 しかも、アジアの成長を取り込む事が、どうして欧米など、基幹航路の維持強化なのか、そして、同時に今整備が進められている、水深16mの埠頭すら必要性が極めて希薄であるのに、なぜ−18mの埠頭を整備しなければならないのか。

 言うまでもなく、大型船の就航するアジア周りの欧州航路にあっては、国交省も認めているように、日本は往路のファーストポート、つまり、最初の積み出し港であり、復路のラストポート、最後の積み下ろし港なのであって、いくら、12000teu級の超大型船が就航しようとも、コンテナ満載で入港することなどありえないのであります。

 したがって、新たな岸壁はつくらないことと仮定したとしても、航路の浚渫から泊地の浚渫と、膨大な費用を要する水深18mの埠頭は、全くその必要性はなく、ムダなことこの上ないと言わなくてはなりません。

 又、コストの更なる低減のためとして、国内の広い範囲から、1、2の港湾に貨物を集中させようとしている事も、問題があると思います。釜山等にトランシップされている国内貨物は、主として日本海側の港湾から出入りされているものでありまして、それを横浜であれ、神戸であれ、集約させようとすれば、勢い、トラック等陸上輸送に頼らざるを得なくなるわけで、モーダルシフトに逆行し、環境面でもマイナスとなるばかりか、高規格幹線道路の建設から、内陸集荷拠点、インランドデポの整備も必要となってくるなど、更なるムダな投資となると言わざるをえません。

 それに何より、折角の地方のコンテナ埠頭が全く用を為さなくなるではありませんか。

 このように、国際コンテナ戦略港湾なるもの、どこから考えても、特に厳しい国・地方の財政状況に鑑みても、およそ前に進めるべきものではないことは、明瞭であります。

 ましてや、中国、香港でコンテナ貨物の輸出の42%、輸入の70%を占める大阪港にあっては、北米等の基幹航路の維持、強化を大命題とする、国際コンテナ戦略港湾など、無縁のものと言わなくてはなりません。

 いずれにしても、成長著しい中国をはじめとする近隣アジア諸国との、大阪港を通じての通商は、今後ともプラス基調で推移するものと思われるのであります。そして、この担い手は、言うまでもなく、比較的小型の船舶であって、むしろこれらの増に備えた港湾整備こそ必要と考えるものであります。

 以上、そういう点で、本意見書案には、賛同できない事を申し述べ、討論と致します。