日本共産党下田敏人大阪市議に聞く
「公営・準公営決算質疑を通じ、大阪市の過大な公共事業の実態がいっそう浮き彫りに。市長、与党も失敗を認める」
2001年度の交通・水道・市民病院・中央市場・下水道・港営各事業会計の決算を審議する大阪市議会が、10月18日に終わりました。この議会を通じて浮かび上がった大阪市政の問題、とりわけ巨大開発の失敗について、日本共産党大阪市会議員団の下田敏人政調会長(生野区選出)から聞きました。
長野県の「脱ダム」宣言にみられるように、ムダと浪費の大型開発を抜本的に見直すことは全国的流れになっています。その必要性が、大阪市ではとりわけ緊急・切実であることが、今回の議会をつうじてはっきりしたと思います。
私が指摘した夢洲の水深15メートルのバース(埠頭)建設は過大な計画にもとづく、ムダな開発の典型です。大阪市は、コンテナ船の大型化に対応するためとして、1つの建設に200億円以上かかる15メートルバースを3つ(C10、C11、C12)も
夢洲に計画。C11は完成し、台湾のエバーグリーンという海運会社が使用を開始しています。ところが、岸壁が完成しているC10は使用する会社が決まらず、私も現地を視察しましたが、巨大なクレーンは使用された形跡はなく、間口350メートル、奥行き500メートルというとてつもなく広大な用地は、草が生えるにまかせてる状況です。
C12は、場所は確保できているものの、建設のめどはたっていません。
事業費はC10だけで、2001年度までに、岸壁など148億円、用地の整備62億円、大阪港の水深は従来13メートルで、これを15メートルにするための浚渫に128億円、あわせて340億円も投入しましたが、まだ一隻も船が入らない。さらに問題なのは、まったく収入が入らないのに、この事業費を起債でまかなったため、その償還に直面しています。2021年まで、毎年5億7000万円づつ(C10の建設費分のみ)償還していかなければなりません。
ところで、エバーグリーン社の6万トン級コンテナ船は、これまで、咲洲のC3バース(水深13メートル)に、何の支障もなく入ってきています。しかも、大阪港に入ったコンテナ船1隻当たりの貨物トン数は、ここ数年ほとんど変わっておらず、1999年1万6800トン、2000年1万6200トン、2001年1万5000トン、むしろ減少ぎみです。
したがって、15メートルバースはこれ以上必要なく、水深もこれ以上浚渫する必要はありません。今後の建設は凍結すべきです。
次に、2008年オリンピックの際には、選手村に予定していた
夢洲(391ヘクタール、大阪城公園の約4倍)全体の開発問題ですが、オリンピック招致が失敗したあと、大阪市も一定の軌道修正を余儀なくされ、この11月には、開発の見直し案を出す予定です。見直しといっても、市長が「白紙に戻すのは無駄」(2002年4月5日付「朝日」)とのべたように、基本的なスタンスは時期を遅らせるというだけです。
夢洲開発の当初計画は、流通系、業務・商業系などとともに、住宅1万5000戸、4万5000人が住む巨大な街をつくるというもので、今議会では、その時期を遅らせ、住宅などは2010年から2011年に建設を開始すると答弁しました。
これは、基盤整備(道路や上下水道など)だけで、5000億円(北港テクノポート線のインフラ1000億円程度が入っているので)にものぼる巨大事業です。この事業費は、これまでの咲洲や
舞洲開発と同様、造成した土地を売ってまかなうことになっています。ところが、咲洲、 舞洲ではあわせて92ヘクタールもの土地が売れ残っており <表参照>、
夢洲の土地が売れる保障はまったくありません。しかも、これまでの事業にともなう起債残高は1100億円超となっており、この償還だけで、咲洲、舞洲の土地を毎年100億円分ずつ売っていかなくてはならないのです。
その上、地下鉄北港テクノポート線建設に1870億円、咲洲とをつなぐトンネルに990億円もの巨費が必要で、誰が見ても過大な計画です。ただちに凍結すべきです。
ところが、公明党議員は、北港テクノポート線を 咲洲から
夢洲まで建設した場合、インフラで590億円、鉄道事業で240億円、その工事期間は7、8年必要と理事者に答弁させたうえで、「
夢洲まででこの計画はとどめるべきだ」と、事実上、北港テクノポート線建設事業の推進を主張しました。
表 埋立地処分状況
地区 |
処分対象面積(ha) |
処分済み |
未処分 |
面積(ha) |
率(%) |
面積(ha) |
率(%) |
舞洲 |
52 |
21 |
41 |
31 |
59 |
咲洲 |
566 |
505 |
89 |
61 |
11 |
|
コスモスクェア以外 |
480 |
444 |
93 |
36 |
7 |
コスモスクェア |
86 |
61 |
71 |
25 |
29 |
|
1期 |
63 |
60 |
95 |
3 |
5 |
2期 |
23 |
1 |
6 |
22 |
94 |
合計 |
618 |
526 |
85 |
92 |
15 |
また、自治体が本来やるべきでない事業に手を出して、にっちもさっちもいかなくなっているのがUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)の土地区画整理事業です。
USJそのものが、東京ディズニーランドのように、民間がやるべき娯楽事業です。それを大阪市が筆頭株主(100億円の出資と100億円の貸付)となって、社長も送り込み、開業までに周辺整備など、土地区画整理事業に945億円も支出してきました。大阪市はこの開発の理由付けに、「関西経済の起爆剤になる」「映像産業を立地させる」「常住人口4000人の街をつくる」などとしてきました。しかし、うるおったのはJRと一部のホテルだけで、かんじんの地元商店街はさびれるいっぽうです。映像産業の予定地はUSJの駐車場に、住宅ゾーンの予定地はJRの貨物駅になっています。
また、今回の一連の不祥事については、アメリカ資本主導の経営体質と3セク事業のもたれ合いに起因すると考えられます。
今、一番の問題は、この区画整理事業費945億円のうち、750億円は22ヘクタールの保留地を売却して充てるべきところ、これまでにわずか0.3ヘクタールしか売れていないことです。なかでも、USJのテーマパーク内にある18ヘクタール、500億円相当の保留地は全く売れる見込みがなく、区画整理事業も700億円の借金をかかえ、どうにもならなくなっているのです。
今回の議会の特徴は、こうした巨大開発の失敗を、自民党や市長が認めたことです。 自民党議員は、「行政の見込み違いによる破綻は、WTC、ATC、OCAT、ドーム、クリスタ長堀など枚挙にいとまがない。武士の商法のみじめな破綻としか言いようがない」とのべ、「(これは)議会にも責任がある」と自らの誤りを認めました。
累積赤字が、合計1149億円に達するいわゆる5K赤字問題で、大阪市が支援のために投じた公金は858億8000万円 <表参照> というばく大な額にのぼります。その中でももっとも巨額なのがWTCです。
WTCは、もともと高さ150メートル、事業費520億円という計画でした。それが、実際には256メートル、1193億円という、あまりにも過大なものになりました。これは、与党議員が、「高さも日本一ということで、当初は152メートル。ところがこれが横浜のランドマークタワーに先を越された。その次に日本一ということで・・・」(自民党議員)などとあおったためです。与党議員の責任はまことに重大です。
WTCへの不当な支援の最たるものは、市の5局(港湾、建設、水道、都市環境、ゆとりとみどり振興)や関係団体の入居です。与党議員ですら、「第2庁舎」になったと言わざるをえないほどです。
この問題で、磯村市長は今回、「本音を申し上げると、くるしまぎれに集団疎開したようなもの」とのべました。従来、市当局は、WTCへの入居について、「資産を有効活用するため」などと強弁してきましたが、その論理の破綻を市長自ら認めたものです。
表 大阪市の5社への財政支援
対象 |
1997 |
1998 |
1999 |
2000 |
2001 |
2002 |
合計 |
ATC |
38.7 |
51.7 |
52.2 |
57.7 |
58.4 |
58.5 |
317.2 |
WTC |
|
58.7 |
51 |
76.2 |
68.5 |
71.2 |
325.6 |
MDC |
0.4 |
30.4 |
30.9 |
32.3 |
32.8 |
32.8 |
159.6 |
シティドーム |
0.4 |
0.4 |
0.4 |
0.5 |
15.7 |
16.9 |
34.3 |
クリスタ長堀 |
|
|
|
|
10.8 |
11.3 |
22.1 |
合計 |
39.5 |
141.2 |
134.5 |
166.7 |
186.2 |
190.7 |
858.8 |
見みすごせないのは、こうした開発至上主義を支える市役所と業界のネットワークです。毎年、200人を超える退職幹部が、外郭団体や業界に天下りしています。現在、外郭団体に在籍している元職員は、1000人をはるかに超えています。
今年の場合では、ATC、WTC、シティドーム、大阪港埠頭公社、大阪港振興協会、運輸振興、市街地開発、土地開発公社などの外郭団体、鹿島建設、熊谷組、大阪ガス、中央復権コンサルタントなど、大阪市と請負契約のある民間企業に天下っています。
局長級以上の幹部が天下った場合、年収は1300万円、65歳までの待遇が保障され、いくつもの外郭団体を渡り歩いている人物や、1995年から75歳の現在まで外郭団体の会長職にとどまっている人物もいます。
こうした仕組みは、事業が失敗した場合でも、大阪市がついているという、もたれ、甘えの構造、無責任な構造をつくりだしています。ここにメスを入れ、抜本的に改革することも不可欠の課題になっています。
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