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市バス・地下鉄の民営化に反撃、市民の足を守るたたかい

日本共産党大阪市会議員団政調会長・瀬戸一正

 

100年の歴史誇る市営交通網

大阪市の公共交通は100年の歴史を誇り、地下鉄8路線・ニュートラム(車輪がゴム製で全線高架の専用軌道を走行する新交通システム)1路線の営業138キロメートル、一日の利用者235万人、市バスは営業621キロメートル、一日の利用者21万人という大切な市民の足であり貴重な財産です。

ところがこの間、規制緩和や「官から民へ」という国の「構造改革」路線を全面的に受け入れてきた大阪市は、公共交通についても、ことあるごとに「コストの削減」「経営の効率化」「民間の経営手法の導入」を主張し、職員の削減を強行するとともに、市バス営業所の民間委託などを進めてきました。「(市バスは)事業規模の2分の1まで管理委託を拡大」するとし、すでに、5つの営業所の民間委託をおこなっています。

オール与党の側もコスト削減論の立場から「(市バスの)赤字路線を維持するのか否かも議論すべきだ」などとこれを後押ししてきました。

この流れを一気に加速して、『市政改革』の名前で、“地下鉄を民営化してしまえ”という乱暴な議論がいま、大阪市で行われています。それが「市営交通の経営形態の見直し」議論です。

 

市営交通の完全民営化を「市政改革」の重点施策に

大阪市は、深刻な財政危機や三セク破綻が相次ぎ表面化する中で、20046月に、小泉内閣のブレーンの一人だった本間正明大阪大学教授を座長にすえた「都市経営諮問会議」を発足させ、20054月には上山信一慶応大学教授らを加えた「市政改革本部」を立ち上げ、マニフェスト案を発表しました。

同年秋の市長選挙をへて、昨年2月に、「市政改革マニフェスト(市政改革基本方針)」を策定しました。それは国の「構造改革」路線に沿って、「大阪市政に民間経営の仕組みを導入する」、「人口と税収に応じた“身の丈”サイズに、事業・組織・予算・人員をスリム化する」とし、事業の「選択と集中」をおこなって、スーパー中枢港湾づくりなどの大型開発は引き続き推進する一方、市民サービスをカットし、事業の民営化・民間委託を一気に進めようというものです。

20063月に設置した市政改革推進会議の委員長に就任した上山氏が、「(05年市長選挙後の)12月からは財界人を交えての『都市経営会議』が始まる。その場を通じて市政改革をガイダンスし、監視しなければならない」「大阪市役所の『改革マニフェスト』は、政府が目指す自治体改革を先取りしたものだ」(2005121日の日経BPガバメントテクノロジー・メールの連載コラム「上山信一の『続・自治体改革の突破口』)とのべたように、住民の福祉の増進につとめるという自治体本来の役割と公的責任をなげすて、大企業への奉仕を「改革」の名で、市長のトップダウンにより強権的にすすめようというものにほかなりません。

 関淳一大阪市長が「マニフェスト」の大きな柱にしたのが、直営事業を民営化することであり、市営交通やゴミ収集事業などの環境事業、市民病院事業など10の事業を「経営形態の見直し」の対象とし、どんな経営形態にするのか「06年度中に結論を出す」としてきました。

その中でも一番の重点施策にした市営交通は、昨年2月のマニフェストで「公設民営化を基本として経営形態を見直す」とされました。ところが5月になって関西経済同友会が「市営交通は完全民営化(株式会社化)すべし」との提言を市長におこなうやいなや、市長は「完全民営化」に大きく舵を取り、交通局に検討を急がして、12月には「改革型地方公営企業」と「公設民営化」「独立法人化」「株式会社化」の4つの形態の経営シミュレーションを発表して「株式会社への移行も可能だ」などと言い出しました。

さらに今年122日には、交通局が、「今後の持続的発展が見込まれる方式」として「現行の地方公営企業の改革方式」と「完全民営化も含む株式会社方式」の「2案が望ましい」と提案をしました。

 

民営化の問題点あきらかにする論戦で、慎重論広がる 

これにたいして日本共産党市議団が民営化に強く反対する論陣を張り、オール与党の議員の中にも民営化慎重論が広がった結果、関市長は“2006年度中に民営化に関する結論を出す”という従来の姿勢を変えざるを得なくなり、216日に記者会見をし、「2007年度中に両案をさらに検討して結論を出す」と発表しました。

今後について、新聞は「新年度から私鉄経営者や金融専門家、交通政策研究者などを含むプロジェクトチームで実現性を検討する」(毎日新聞210日)と報道しました。

関市長の「市政改革」のガイダンス役を果たしている上山信一慶応大学教授は自らのブログで、「地下鉄民営化、着々と準備が進行」と言い、「市営交通が民営化すればやっと本物の民営化、日本第一号だ。金融機関が注目し、市側と接触を始めている現状では、もうルビコン川は渡った」という毎日新聞23日付に掲載された自らの発言を紹介しています。

市民が100年以上にわたって築き上げてきた市営交通が財界に乗っ取られかねない重大な危機にあるというのが、今の局面だと言わなければなりません。

 

「赤字論、株式会社案は公共交通を後退させる」と反論

わが党議員団は、この間、民営化反対の全面的な議論を展開してきました。

大阪市は市民生活にとって必要不可欠な都市インフラを膨大な費用をかけて建設してきたこと、市民の足を守るために赤字路線があってもバス事業を拡充してきたのは公営企業だからこそできたこと、こうしたことは利潤を追求する株式会社では到底できなかったことなどを指摘してきました。地下鉄事業は2005年度196億円の黒字を出しており、大阪市営交通は公共性と同時に経済性を追及するという使命を立派にはたしており、今後も公営交通として守り発展させることが必要で、民営化など経営形態を変える必要はまったくない、と主張しました。

また、上山氏が、“市営交通には8000億円の借金があり、市の一般会計からも多額の補助が出ている”ことなどを完全民営化への理由にあげていることについては、8000億円の借金は、民間では絶対にできない交通ネットワークを長年にわたって築き上げてきた結果であり、2005年までの10年間で、交通局が4300億円の元金返済をしたことも明らかにして、これを経営の失敗の証というのはとんでもないことだ、と批判しました。

また、「地下鉄は民営化するべきだ」などと主張する関西財界のねらいは、大きな黒字を出している優良企業である地下鉄を自らの新たな儲け口にすることにあると指摘しました(経済同友会提言は「将来は株式配当が見込まれる」と主張し、現に株式会社化に必要な資金提供について外資系金融会社までが触手を伸ばしている、との報道もある)。

交通局がまとめた「改革型地方公営企業方式」「株式会社化方式」についても、両方とも、大幅なリストラや給与のカットで職員の働く意欲を低下させるとともに、バス路線を縮小して市民の足を奪い、地下鉄の延伸はまったく検討しないなど、いずれも後ろ向きであり、どうして“発展性のある経営形態”だと言えるのかと批判しました。

とりわけ、株式会社化については、公共の福祉の増進を目的にした企業体から営利を目的にした組織に変えることになり、地下鉄の施設改善や安全運行の設備投資も今に比べて困難になるばかりか、市バスの赤字路線はすべて切り捨てられると指摘しました。

さらに「株式会社案」は、移行にさいして1400人もの“余剰人員”を大阪市にかかえさせてその人件費を市に払わせることが前提になっていたり、転籍させる職員への退職金支払いや、過去に発行した一部の起債の償還にかかわる補助金をもらい続けようとしていることや、その補助金に対する国からの地方交付税がカットされることなどをきちんと全面的に計算すれば、株式会社方式の方が改革型公営企業方式に比べて、市の負担が361億円も大きくなるという独自の試算を示し、「株式会社」の方が市の負担軽減をはかれるというのはまったくのごまかしだと批判しました。これについては与党議員のなかからも同様の議論が出ました。

今後大阪市は、「民営化をすれば市財政の負担が軽くなる」、「民営化すれば経営の自由度が広がって市民サービスが向上する」などの幻想をばら撒いて市民に民営化を迫るとともに、一方では「民営化が嫌なら合理化を飲め」と言わんばかりに市バス路線の縮小など選択肢を示そうとするでしょう。「市営交通を市民の公共交通として守れ」の議論と市民の運動が、いま、大きく求められています。

 

市民との矛盾広げるコスト縮減によるサービス低下

民営化推進の議論とあわせて、市営交通をめぐる動きのもう一つの大きな特徴は、「コスト縮減」「経営の効率化」が、市営交通の安全性や市民サービスの問題で、市民との矛盾を大きく広げていることです。

昨年は16年ぶりの新路線・地下鉄8号線(今里筋線)が、1224日に開業しました。これを機に大阪市は、旭区城東区鶴見区など、大阪市東部の7行政区を走る21のバス路線の運行回数を約20パーセントも減らすなどの「バス路線再編成」を強行しました。とりわけ、今里以北の運行回数が約40パーセントも減らされるとともに、守口から杭全(くまた)に至る路線が今里で切られてしまい、住民から、増便や路線の復活を求める切実な声があがりました。  

関係行政区のわが党議員は、交通局への緊急要望(「守口から杭全行き直行便を復活すること。守口〜関目間は今里筋線の開通とは無関係でありバス便を減らす根拠はなく、バス便を復活すること」など)をおこないました。

年が明けてからも、各行政区で、議会への陳情署名が展開されるなど、市民の運動はさらに広がりました。「地下鉄ができたからといって停留所間の距離が短く利用しやすいバス便の削減は納得できない」「新線開通にともなう変更のはずなのに、新線と関係のない路線まで便数を大幅にへらしたのはおかしい」「地下鉄と市バスが一体となった交通ネットワークをそこねるもの」などの声が上がりました。

わが党議員団は、現地調査と利用者との対話をもとに、守口方面に向かう今里停留所では到着バスが遅れると乗り継ぎがうまく行かず20分以上の時間待ちをしなければならないこと、また鶴見区方面から森小路大和川線でバスを乗り換えて杭全方面に向かうには今里でさらに乗り換えることになり、今まで200円で行けたものが400円の料金負担になること、などを具体的に指摘。陳情の採択を強く求めました。自民・公明・民主のオール与党は、「引き続き審査する」との態度をとり、事実上否決しましたが、交通局の理事者は「状況を調査したい」と答弁しました。

 

きめこまかいネットワークへバス路線の改善を提案

市民にとっての市バスの利便性は、地下鉄の駅間距離が平均1100メートルなのに対し、バスの停留所間距離は435メートルであり、地下鉄よりもネットワークがよりきめこまかいという点にあります。市民の運動とわが党のとりくみで、高齢者にも乗り降りが容易なノンステップバスや車椅子で乗車できるバスも、年々増えています。

わが党議員団は、バス路線の再編成にあたっては、路線の切り捨てをおこなわず、高齢者などに配慮したきめ細かな路線の新設・拡充をはかることを、くりかえし求めてきました。

2001年から一部の行政区で試行がはじまり、現在24全行政区に路線が拡充された料金100円の小型バス・「赤バス」(通常の路線バスは200円)については、地域利用者の声を尊重し、コースや回数を増やし、運行コースを循環型から双方向に改善して利便性を高めるなど、利用者の増加をめざす具体策を提案してきました。

また、バス事業の民間委託については、わが党議員団は、利益第一の民間バス会社で、長時間過密労働や人件費の圧縮などにより、運転手の急死や重大事故が相次いでいることを指摘し、「市民の足であるバスの安全性が低くなることは明白だ」と、民間委託を批判してきました。

委託推進派が、バス事業の赤字を問題にしている点については、環境への貢献や高齢者の社会参加など、市バスの果たす役割を総合的に考えれば、市の一般会計からの補助は当然であり、市バスが地下鉄を補完しつつ、地下鉄と一体に整備されていることから、黒字の地下鉄会計からの援助も検討すべきだ、との提案もしています。

 

増加する地下鉄駅ホームの転落事故=安全確保を

この間の交通局職員の大幅削減で、ほとんどの地下鉄駅のホームから職員がいなくなったことから、乗客の安全が懸念される状況になっていることも大問題です。

駅ホームからの転落事故は2001年からの5年間で217件発生しており、死亡事故も起こっています。視覚障害者をはじめ、市民から、ホームは「欄干のない橋」だと不安と心配の声があがっています。

視覚障害者団体などからの要望を受け、わが党議員団は、他都市の状況も視察し、ホームへの可動式柵の設置と職員の配置をくりかえし求めてきました。可動式ホーム柵の設置問題は、数えてみると、この間24回も議会でその実現を迫ってきました。

新規開業した地下鉄8号線には可動式ホーム柵が設置され、既設線の7号線(長堀鶴見緑地線)全駅にも設置(事業規模35億円、2010年度末完了予定)されることになりました。

 

市民とともに無料敬老パス守り、高齢者の足を確保

最後に、地下鉄・市バスの敬老優待乗車証(通称・敬老パス)の無料継続を守ったたたかいについて、ふれておきたいと思います。

地下鉄・ニュートラムと市バスが無料で利用できる敬老パスは、30万人を超える70歳以上の市民に交付されています。この制度は、1972年、高齢者の生きがいと社会参加を促進し、福祉の増進に寄与する目的でつくられました。

以来、高齢者にとってはなくてはならないものになり、「有料になったら閉じこもる人が多くなる」「病院や買い物にも行けなくなる」「大阪市民でよかったと実感できる制度」など、無料での継続が強く望まれています。

大阪市はこの制度を維持するために、一般会計から交通会計に例年約80億円を投入しています。これが、経費削減策の標的になり、市当局の意向を汲んだ与党議員の質疑以来、有料化の動きが表面化しました。マニフェストにも、「あり方や水準を検討すべき市民サービス」の第一に「(敬老パスの)本人と交通事業者の一部負担の検討」をかかげるに至りました。

わが党議員団は、「敬老パスは、長年大阪市の発展に貢献してきた高齢者への敬老の心をあらわすものであり、高齢者の生きがいを守る上で、不可欠のものだ」と無料での継続をつよく主張し、本会議での討論や委員会での質疑など、28回にわたって高齢者の願いにこたえるよう求めてきました。

わが党議員団の呼びかけに応えて、「大阪市の敬老パスを守る連絡会」がまたたくまに全行政区に結成されるなど、市民の運動も急速に高まりました。とりわけ、市内に1300ある老人会への申し入れは、世論の広がりに大きな影響を与え、「敬老パスを楽しみに大阪市内に引っ越してきた。夢を奪わないでほしい」「高齢者だけの制度ではない。同居する家族を物心両面で助けている」「ムダづかいをやめて敬老パスを守ったとなれば大阪市の面目躍如」などの声が次々に上がりました。請願署名も積極的に取り組まれ、13万を超えて提出されました。    

市民の大きな運動と結んだわが党議員団の奮闘で有料化を阻止し、2005年、6年に続き、7年も無料での継続が決まりました。本年秋にはパスがICカード化されますが、その作成費用(一枚3150円)も本人負担としないことになりました。

敬老パスを守ったたたかいは、市営交通が市民生活のなかで大きな位置を持つこと、市民要求を前面にかかげて戦えば市政を動かすことができることを示しました。

 

今年11月には、関市長が2005年秋に辞職して再選されたことを受けて前回市長選挙から2年で、再び市長選挙が行われます。国保料・介護保険料などの負担増市政とともに、市営交通問題が市長選挙の大きな争点になるのは間違いありません。

わが党議員団は、大阪市の公共交通を守るために、論戦の先頭に立つとともに、市民との共同に全力をあげる決意です。

<『議会と自治体』6月号に掲載>