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保育新システムを考える
大阪市の面積基準緩和条例 保護者ら「ありえへん!」
0歳児ぎゅう詰め9人→28人

 

 大阪市の橋下徹市長が提案し可決された保育所の面積基準緩和条例が、実施されようとしています。0〜5歳児クラスまで一律1人あたりの面積1.65平方b(畳約1枚分)で受け入れ可とするこの条例を、保育所や保護者はどう受け止めているのでしょうか。(小倉詩穂)


 大阪市内の保育所を訪ねると、1歳児が昼寝の準備をしていました。この日は2人が欠席していたため、園児はいつもより少ない13人。しかし、保育士3人は大忙しです。

 「○○ちゃんトイレ行かな〜」「パジャマ着て〜」「ほらほらこっち来て〜。どこ行くの〜」―。床におもらしをする子、先生から逃げ回る子。「3人ではまとめきれない。忙しい時はヘルプの保育士が入ります」。園長が話します。


発達保障できない

 この園の1歳児の定員は12人。今は、定員超過の15人が在籍しますが、市の新基準では最大25人が入所可能となります。25人分の布団を敷いてみたところ、足の踏み場もないぎゅうぎゅう状態。園長は「これ以上の受け入れは無理。定員が1人増えるたびにかみつきなどの問題行動やケンカが増えます」と顔を曇らせます。

 フルタイムで働く保護者が多い同園。11時間という長時間を保育所で過ごす子どもたちばかりです。「長時間過ごすので、一人ひとりをしっかり見てあげないと、発達は保障できません。保育園は預かるだけの場ではありません。25人の子どもが長時間、狭い部屋で過ごすなんて、できません。保育士のストレスも増えます」

 保育士の女性(25)は、「今でも大変なのに、さらに子どもに目が行き届かなくなります」と不安を訴えました。

 現在、国が定める保育所の面積基準は0〜1歳の乳児室で1人あたり1.65平方b、ほふく室は1人あたり3.3平方b。2歳児以上は1人あたり1.98平方bとされています。ところが、大阪市はこれを0〜5歳児まで一律1人あたり1.65平方bとしました。0歳児クラスも現在9人のところを28人まで受け入れ可とされ、ずりばいやハイハイをする場が保障されなくなります。

 「それはどこで発表されたんですか?」「え〜?ありえへん!」。面積基準緩和に保護者らはびっくりの様子。「先生の目がどれだけ行き届くのか心配」(5歳児の母)、「今でもケガがあるのに、ぎゅうぎゅう詰めなんてありえないです」(2歳児と5歳児の母)、「子ども1人みるのも、大変だし目が離せない。先生も大変になるやろし、心配」(1歳児の母)と声を寄せました。

 父母会会長は「質より量という考え方は子どもの発達や安全を考えているとはいえない。待機児童を抱える親の気持ちはよくわかりますが、子どものことを考えればこれ以上基準を引き下げるなどありえません」と話します。

 橋下市長は、「なんで1.65(1人あたりの面積)が悪いんだ。証拠を示せ」と言っています。しかし、「事故が起こってからでは遅い。影響が出てからでは遅い」(園長)のです。


保護者の対立生む

 議会での本条例の可決にあたっては、「安易に使わず、保育現場の状況をふまえるように」との付帯決議があがりました。大阪保育運動連絡会の芳村慶子事務局次長は、「約120の陳情書や2000を超えて寄せられた反対意見などがこの付帯決議につながった。運動の成果です」と話します。

 子ども・子育て新システムでも、待機児童の解消のためと称して同じように基準が緩和される危険性があります。吉村事務局次長は訴えます。「詰め込みや保育ママなどの小手先の対策では待機児童は解消されないばかりか、入所園児の保護者と待機児童の保護者との間に対立をうみます。計画的な保育所建設と公立幼稚園の空き教室など、公的施設の活用が求められます」

(2012年5月9日付しんぶん赤旗)