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橋下市長 営利任せで「市民の足」奪う

大阪市営地下鉄・バス民営化 緊迫

 住民との合意もなく

 大阪市の橋下徹市長が市営地下鉄・バスの民営化に血道をあげています。15日、市議会に公営としての両事業を廃止する二つの条例案を提出。事業を行う市交通局の民営化について「2、3月で決着をつけたい」と話しています。そこには市民の合意も、道理もありません。(藤原直)


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橋下徹市長のもとで民営化の対象となった大阪市営地下鉄

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(写真)地下鉄・バスの公営交通としての存続を求める請願署名を提出する年金者組合の人たち(右から3人目は紹介議員の日本共産党の岩崎賢太市議)=8日、大阪市議会

バスを削減

 市交通局の民営化基本方針案には▽市バス(132路線)は、コミュニティー系バスである「赤バス」の26路線廃止(今年3月末)や一般バス17路線の削減(翌2014年3月末)で89路線に集約した上で民間に売却し、14年4月から民間運行を開始する▽地下鉄は、15年度から民営化し、株式会社とする―というすさまじい工程表が描かれています。

 とりわけ、公営地下鉄の民営化は全国でも異例です。大阪市営地下鉄は1933年の御堂筋線開通以来、税金や利用料で築き上げてきた巨大な市民の財産です。「公共の福利増進に徹する公益事業」(「大阪市地下鉄建設五十年史」)として出発し、営利目的ではなく、都市計画事業の一環としてバランスのとれた街づくりに寄与してきました。

 現在では、ニュートラム(新交通システム)を含め9路線137・8キロメートルの路線網を有し、1日あたり228万人が利用しています。

 03年度以降は単年度黒字に転じ、10年度には公営地下鉄としては全国で初めて累積欠損金を解消。08年度から、赤字の市バスを支援し、「市民の足」を守ってきました。11年度は、市バスに30億円の支援をした上で167億円もの黒字を生み出している「優良事業」です。

 これからいよいよ、計画中の可動式ホーム柵の増設などの安全対策、条例で定められた残りの路線の建設、バリアフリー化、料金値下げなどについて公営事業ならではの判断で利益を市民に還元していく段階にあります。

不安と抗議

 ところが「民営化」を掲げてきた橋下市長は「地下鉄の自然な姿といえば市場原理」と発言。ホーム柵増設は「経営判断の中で考えられるようなもの」と述べてきました。

 市東南部の鉄道利用の不便を解消し、まちの活性化にも資すると10年10月に全会一致で推進決議が採択された今里筋線の延伸についても「もうかるんだったら延びますよ」と語ってきました。

 また、地下鉄の市バスへの支援を12年度から突然停止し、バス事業の「破綻」を強調。これと並行して打ち出された「赤バス」の廃止には、市民から不安と抗議の声が沸き起こっています。

 一方、橋下市長は“民営化の果実”を実感させようと、最近の会見で地下鉄の終発時間の延長やトイレのリニューアルなどをしきりに打ち出しています。しかし、これらは民営化前から実現していく計画で市民からは「逆にいうと民営化しなくてもできるのでは」との声があがっています。

市営でこそ

 地下鉄の民営化によって「税金に頼らない経営を実現する」と宣伝していることにも道理がありません。

 事業の性質上、建設改良費は国や市の一般会計から出資金や補助金を繰り入れてもらう必要はありますが、市一般会計からの運営(収益的収支)への実質支援といえるのは特例債元利補助だけ。これも段階的に減らされ12年度は7億円です。

 民営化で「税金を使う組織から、納める組織へ」(市当局)という宣伝も、地下鉄が一般会計に貢献しようと思えば、民営化して税金で納めなくても、地方公営企業法18条2項の条文通り「利益の状況に応じ」て「納付金」を納付すればいいだけです。

 これに対し民営化による懸念材料や実害は尽きません。

 市は地下鉄民営化の前提として800人もの職員削減などで150億円を浮かせるとしており、安全にも影響を及ぼしかねません。

 バス事業はもっと深刻です。43路線の削減で「市民の足」である公共交通のネットワークがズタズタに切り裂かれます。民間に売却される残りの89路線も守られる保証はありません。「太い動脈として黒字を生み出す地下鉄ときめ細かく必要なところに走らせる市バスが市営で一体運営されてこそ市民の足を守ることができるのです」(日本共産党の北山良三市議団長)。

財界の要望

 橋下市長が民営化にこだわる背景には関西財界の要望があります。関西経済同友会は06年以降、市交通局の完全民営化を求めて提言を重ねてきました。06年の提言をまとめ、地下鉄民営化の旗振り役を務めてきたのが、現在の大阪商工会議所会頭・佐藤茂雄京阪電鉄相談役です。

 橋下市長は昨年、京阪の子会社・京福電鉄の藤本昌信副社長を交通局長に登用。府市統合本部の地下鉄民営化プロジェクトチームには直接の利害当事者である関西大手私鉄5社の幹部を招きいれ、地下鉄の内部を丸裸にさせました。地下鉄事業の資産の合計は簿価でも1兆3578億円(11年度)。一連の動きに表れているのは利権の構図そのものです。

 高齢化社会で、ますます発展が求められる公営交通を市民から奪い、財界に利益を与える―これが「既得権とたたかう」といってきた橋下市長の姿です。

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(2013年2月21日付しんぶん赤旗)