「在宅介護手当」支給制度の創設は

憲法と老人福祉法の理念

  99年10月19日 辰巳正夫議員が在宅老人介護手当条例を提案

私は、日本共産党大阪市会議員団を代表いたしまして、ただいま上程されました議員提出議案第21号「大阪市在宅介護手当支給条例案」について、ご説明申し上げます。

              提案は今回で28回目

まず、条例案の内容については、在宅で3カ月以上寝たきりの状態にある高齢者を介護されている場合や痴呆性の高齢者がご家庭におられる介護者の方々に対し、その負担を少しでも軽減し激励するために、月々5万円の介護手当を支給するというものです。わが党の在宅介護手当支給条例の提案は今回で28回目となります。

    介護保険制度のもと自治体独自の高齢者福祉の拡充が重要

  次に提案理由であります。
 第1に、高齢化社会が進む中で、高齢者介護の問題は、国民の老後の生活における最大の不安要因となっており、その人の人生のみならず、家族、さらには社会全体にとっても極めて重要な課題となっているのであります。こうした方々が健やかな老後を送れるかどうかは政治の責任であります。
 さて、いよいよ2000年4月から介護保険が施行されます。
 これまで、日本の社会保障制度の中心的役割をになってきたのが、年金、医療、雇用、労災保険といった社会保険制度であります。介護保険は5番目の社会保険として誕生するわけであります。
 ところが、年金、医療、雇用の各般にわたって制度の改悪が行われ、この既存の社会保険制度の存立基盤そのものが、自民党政府の失政のもとで大きく揺らいでいます。そのため国民の将来不安が増大し、これが不況をいっそう長引かせるという悪循環を生み出す要因となっているのであります。
 来年はじまる介護保険制度が「保険あって介護なし」と言われることのないように、国に抜本的な改善を求めるとともに、自治体が独自の高齢者福祉を拡充し、ひろく高齢者の暮らしを支える施策が重要となっているのであります。
 私どもは、憲法と老人福祉法の理念に鑑み、高齢者が健やかな老後を過ごすことのできる条件整備を着実に行なっていくことは国や地方自治体の責務だと考えております。
 その重要な柱の一つとして、ますます家庭介護者の労に報いるための「在宅介護手当」支給制度の創設が待たれているのであります。

        家庭介護の重要な役割に目を閉ざしている大阪市

 第2に、各政令都市における「高齢者介護手当」の実施状況を見てみますと、ほとんどの政令都市で実施されています。いまだに実施に踏み切っていないのは福岡市と大阪市だけであります。
 一部には、来年の介護保険制度実施との関連で看過できない動きも見られます。例えば、神戸市や仙台市の場合、兵庫県や宮城県との協調事業として実施していますが、県側が削減ないしは廃止計画を示しているため、現在「検討中」となっています。仙台市では「市民の中に定着している」として、綱引き状態となっています。廃止論者は、「相互扶助の保険制度のもとで現金支給はなじまない」「バラマキ福祉だ」などと言っているようでありますが、なんと、家庭介護の重要な役割に目を閉ざしている大阪市の論建てと瓜二つであることに驚かされます。
 むしろ、「市の独自施策として家族介護を激励することによって、金のかかる施設介護の費用が軽くなり、介護保険財政自体が大幅に助かるのであり、介護手当は継続実施すべきだ」という、存続を求める市民の率直な意見に耳を傾けるべきであります。

       東京都では月額5万5千円、さらに上乗せの行政区も

 東京都では、日本共産党の質問に対して、これまで都が介護保険法20条の介護給付との重複を認めない「併給調整」の条項に抵触する危険性があるとして見直しを正当化してきましたが、今回初めて、厚生省が都の老人福祉手当がこれに当たらないと判断したことを報告しています。
 東京都の老人福祉手当は、70歳以上の場合は月額5万5千円であります。さらに、この東京都の制度の上に、東久留米市では1万円上乗せしたり、江戸川区のように60歳以上や1ヵ月以上の区分を追加して利用しやすくしています。

       大阪市で実施すれば40億円・市予算の0.1%で実現

 大阪市が月額5万円の介護手当を実施した場合、財源がいくらかかるかと言えば、わが党の試算では40億円で制度化できます。大阪市の予算規模は4兆円ですから、そのわずか0、1%にすぎません。
 これまでも日本共産党大阪市会議員団は、市民のくらしを守るという地方自治体本来の役割を果たすべきだと考え、今の大阪市のように、巨大開発と同和行政には湯水のように予算を使うかたわら、福祉や教育の予算は後回しにするやり方は根本から転換するよう求めてきました。ここに提案しています「在宅介護手当の支給」は何も、この根本的な転換をしなくても市が高齢者と家族の方々に健やかな老後を送っていただこうとういう気があれば、スグに出来る極めてささやかなものであります。

        高齢者が高齢者を介護している実態への支援策を

 第3に、大阪市の調査を見ても、在宅ねたきり高齢者の特徴として約8割が75歳以上の後期高齢者で、平均年齢は82.2歳となっています。日常生活の状態では、目の不自由な人が72%、耳の不自由な人が35%、言葉の不自由な人は48%であり、記憶については3人に2人の障害があります。排泄に関しては、何らかの介助を必要とする人が53%、おむつを使用している人は62%であります。平均寝たきり期間は4.7年と報告されております。
 つぎに、寝たきりの高齢者の主な介護者についてでありますが、「本人の娘又は息子」か「本人の配偶者」であり、あわせて67%となっております。そして、主な介護者の年齢は平均62歳であります。すなわち、高齢者が高齢者を介護している実態を物語っています。主な介護者の健康状態は「健康な人」は42%と半数に満たず、50%以上が健康に問題がある訳であります。一日の内で世話する時間帯は「一日中」と答えた介護者が65%を占めております。介護で困っていることの最も大きいことは「心身の負担が大きい」と答えた人が50%となっております。
 総じて言えることは、寝たきりの人や、とりわけ痴呆の高齢者の在宅介護は、その家族にとっては24時間、毎日、毎日休みなく続きます。これは介護保険制度が導入されても、寝たきり、痴呆高齢者の介護者にとっては、日常の負担において大幅に軽減されるということにはなりません。
 いまこそ、介護者の精神的、経済的負担の軽減をはかる事は、介護の実態からして切実に求められていることをご理解いただきたいのであります。

         介護手当の支給は他都市で既にやっていること

 私どもが提案している介護手当の支給は、何も特別なことをするのではなく他都市でも、既にやっていることをやろう、というだけのことであります。他の高齢者施策が前進しているならいざ知らず、遅れている大阪市の水準を少し引き上げ、切実な市民の期待に応えるべきであります。ぜひ介護手当が実現するよう訴えるものであります。
 以上で条例提案の理由と内容の説明をしましたが、私の地元・西淀川区の老人クラブ役員のみなさんの中でも「在宅介護をする者が高齢になっており大変な事である」「介護人の精神的、肉体的な負担を少しでも少なくするために必要」など、介護手当を求める声が圧倒的多数であります。
 高齢者の豊な老後を保障するため、介護手当支給条例に議員各位が賛同いただけますよう訴え、提案説明を終わります。

           大阪市在宅老人介護手当支給条例案

(目的)
第1条 この条例は、在宅老人の介護者に介護手当(以下「手当」という。)を支給することにより当該介護者の精神的、経済的負担を軽減し、もって在宅老人の福祉の向上に寄与することを目的とする。

(用語の定義)
第2条 この条例において「在宅老人」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
 (1)満65歳以上の大阪市民で、居宅において引き続き3月以上臥床の状態にあり、日常生活において常時介護を必要とする状態にある者
 (2)満65歳以上の大阪市民で、居宅において痴呆の状態にあり、日常生活において常時介護を必要とする状態にある者

(受給資格)
第3条 手当の支給を受けることができる者は、在宅老人を現に主として介護している者とする。

(支給申請)
第4条 手当の支給を受けようとする者は、大阪市在宅老人介護手当支給申請書に、民生委員の証明書その他受給資格を証する書類を添えて市長に申請しなければならない。

(支給決定)
第5条 市長は、手当の支給申請があったときは、その内容を審査し支給の可否を決定し、これを申請者に通知する。

(支給更新申請)
第6条 前条の規定により支給の決定を受けた者(以下「受給者」という。)が、引き続き手当の支給を受けようとするときは、毎年5月1日から5月31日までの間に、 大阪市在宅老人介護手当支給更新申請書に第4条に定める書類を添えて市長に申請しなければならない。

(手当の額)
第7条 手当の額は、在宅老人1人につき月額50,000円とする。

(支給期間)
第8条 手当の支給期間は、支給申請のあった日の属する月の翌月から手当を支給すべき事由が消滅した日の属する月までとする。

(支給方法)
第9条 手当は、毎年2月及び8月にそれぞれ前月までの分を原則として口座振込の方法により支給する。

(受給資格の消滅及び支給の制限)
第10条 受給資格は、次の各号の1に該当したときは消滅する。
  (1)在宅老人が市内に住所を有しなくなったとき
  (2)在宅老人が死亡したとき
  (3)在宅老人が入所施設に措置されたとき
  (4)受給者が在宅老人を介護しなくなったとき
  (5)在宅老人の状態が常時介護を必要としなくなったとき

(手当の返還)
第11条 市長は、受給者が次の各号の1に該当するときは、受給者から支給を受けた額の全部又は一部を返還させることができる。
  (1)偽りその他不正の行為により手当の支給を受けた場合
  (2)その他この条例の趣旨に反すると市長が認めた場合

(届出)
第12条 受給者は、次の各号のいずれかに該当する場合にはその旨を速やかに市長に届け出なければならない。
  (1)受給者又は在宅老人の住所又は氏名に変更があったとき
  (2)手当の支払いを受ける金融機関を変更しようとするとき
  (3)受給資格が消滅したとき

(施行の細目)
第13条 この条例の施行に関し必要な事項は、規則で定める。
    附 則
 この条例の施行期日は市長が定める。