大阪市 深刻化する大阪市の野宿者問題 (上)
仮設避難所 市民、野宿者の合意なく
抜本策欠く計画は中断を
(しんぶん赤旗 2000年11月25日)
深刻化している大阪市の野宿生活問題について、日本共産党の谷下浩一郎市議に聞きました。
「五輪の為」市民から批判
− 大阪市は、住民の反対運動が続く長居公園内の野宿生活者向け仮設避難所の着工を強行しようとして、住民との間で小競り合いを起こし、テレビ・新聞でも大きく報道されましたが、この問題をどう見たらいいのでしょうか。
谷下 何よりも就労対策や生活保護の適用など、やらなければならない抜本的な野宿者対策が不十分なままに、市民や野宿者自身の合意もないのに、一方的に強行しようとしたところに根本的な混乱の原因があります。長居公園は、市が招致を目指す2008年五輪の際にはサッカー会場などに予定され、来年2月には国際オリンピック委員会が視察する可能性もあることから、「大阪五輪のため」と市民から批判の声が上がっているのも当然です。
−長居公園には、430といわれるテントが並び、「早くなんとかしてほしい」という声があるようですが…。
「入所する」わずか1割
谷下
野宿者の方は、好き好んで野宿している人は、ほとんどいません。失業などによって止むなく過酷な野宿生活を強いられているわけです。だから、一方的に排除するようなことでは、全く解決になりません。なによりも、野宿者自身にとって、最も人権に配慮し、地域住民にも支持される解決方法を、よく当事者の意見を聞いて実施していくことこそ必要です。ところが、大阪市のやり方には根本的な欠陥があります。
第一に、「寒い冬が来るのに野宿する人を放置できない」などと、あたかも人道的な見地で野宿者のことを第一に考えてやっているかのように言っていますが、これが全くの詭弁だということです。大体、「放置できない野宿者」は市内に1万人を超えているのに、対策本部をつくりながら、真に有効な手だてを打たず、長居公園以外はほとんど放置したままです。後でも述べますが、病院から退院したら生活保護を即打ち切って、また野宿に戻ることを余儀なくさせるような人権侵害を平気でしておいて、こんなことを言っても誰も信用しません。強い批判のなかで若干手直しをしましたが、最初は周りと3メートルの鉄の壁で遮り、プレハブに二段ベッドを並べただけのもので、大阪市自身の調査でも仮設一時非難所に「入所する」と答えたのはわずかに1割でした。
第二は、いうまでもなく、地域住民の合意がないことです。周辺住民の2団体で約2万5000人の建設反対署名が集まっています。ところが、市側は「説明は尽くした」「合意は得られている」と一方的に宣言して建設を強行しようとしたわけですから、反発を受けるのは当然です。市側は謙虚に受け止め、この計画を白紙に戻して考えなおすべきです。
一方的に宣言 建設を強行
第三に、こんな野宿者自身からも周辺住民からも支持されないことを、2008年オリンピック大阪招致という市の思惑を最優先して、3年間で10億円も使うようなやり方ではなく、そんなお金があるのなら、就労対策や生活保護の適用など、抜本的な対策を行うことこそ緊急課題だということです。
− 長居公園を含め、どうして大阪市に1万人以上といわれる全国最多の野宿者が発生しているのでしょうか。
谷下
それは、いまの長期にわたる全国的な不況やリストラ・失業問題ということと、大阪の場合は、釜ヶ崎に全国最大の日雇い労働市場が存在していることを抜きには考えられません。
不況、高齢化日雇い労働者
西成区の釜ヶ崎(あいりん地域)は、全国一の日雇建設労働市場として、東京都・山谷地域や神奈川県・寿地域を大きく上回る規模です。この地域には、22000名の建設日雇い労働者がいると言われていますが、求人数は、不況の影響や労働者の高齢化、建設産業の機械化等の影響でこの間、阪神淡路大震災のときを除いて激減しています。バブル経済期であった1989年の187万人(年間延べ)をピークに、98年度には58万人にまで、約3分の1にまで減少しています。83年には雇用保険手帳所持者の平均年齢が46.4歳であったのが、99年には54.5歳と高齢化がすすんでいますが、真っ先に日雇い労働市場から排除されるのが、高齢労働者です。
昨年大阪市が行った「野宿生活者聞き取り調査」によると、聞き取り調査を行った野宿者のうち、あいりん地区での就労経験がある人は6割近くにのぼり、「あいりんの日雇い労働者は、あいりんでの仕事に就けない状態が続くことが、野宿生活に直結することが読み取れる」と同報告書は述べています。