2000年12月25日

大阪市礒村隆文市長 殿
関西電力株式会社  殿

関電PCB混入絶縁油の処理施設建設についての申し入れ

                       日本共産党 大阪市会議員     瀬戸一正
             日本共産党西淀川此花地区委員会地区委員長  猪腰幸治
            
 関西電力が、近畿一円の電柱上の変圧器の中のPCB混入絶縁油を回収して、此花区桜島の、桜島埠頭(株)が大阪市港湾局から借地して経営している石油タンクに5万キロリットルも保管してきた問題、今回新たに、絶縁油と変圧器容器のリサイクル施設を建設しようとしている問題は、周辺住民や周辺企業の安全面からも、大阪市の環境問題としても重大な問題である。
 電柱上変圧器のPCB混入絶縁油は、平成元年に、東京電力と東北電力が「変圧器絶縁油」の一部に微量のPCBが混入していると発表し、国が電力各社に調査を指示、関電も平成2年にPCB混入絶縁油があると発表したものである。当時処理方法が確立していなかったため、平成2年から順次回収して絶縁油を抜き取ってタンクに保管し、この絶縁油が付着した変圧器容器は別の場所に保管されて来た。関電は管内すべての「変圧器PCB混入絶縁油」の量を6.3万klと推定している。国と電力各社は、PCBの化学分解処理技術の開発研究を進め、平成10年6月に廃棄物処理法を改正してこの技術を認証した。 今回の関電の計画は、上記技術を用いた工場(絶縁油リサイクルセンター)を、絶縁油保管石油タンクの近くに建設し、タンクローリー車で絶縁油を搬入し、無害化・再利用しようとするものであり、変圧器容器も同じく桜島に建設する工場(容器リサイクルセンター)に搬入し、容器内部を洗浄して残油を回収し絶縁油リサイクルセンターに回し、洗浄した容器は再利用しようとするものである。
 この問題で日本共産党は、瀬戸市会議員が、12月4日の此花区公害問題対策協議会で「日本で初めて実施される処理方法である。PCBに含まれるコプラナPCBのダイオキシン評価の資料が明らかではなく、石油タンクや処理工程から空気中に漏れ出る恐れのないことが十分には明らかにされていない。研究室での実証実験ですぐに工場での大量処理をやろうとするもの。住民の安全、環境への影響について十分慎重にすべきだ」と主張し、その後も二回にわたって関電からのヒアリングを行うとともに、安全面での疑問を投げかけてきたが、ここにあらためて、以下の申し入れをおこなうものである。

1) 関電は、絶縁油のPCBの中にはコプラナPCBが含まれていることを認めている
 コプラナPCBは平成12年1月施行のダイオキシン対策新法で「ダイオキシン類」に加えられている猛毒物質である。関電のPCB混入絶縁油は「PCB汚染物」であるとともに、「ダイオキシン類汚染物」でもある(ダイオキシン類汚染物については国も処理基準をまだ作成していない)。
 関電の説明書には、保管絶縁油の中のダイオキシン類について全く言及がないだけでなく、ダイオキシン類の現況調査も実施してなければ、その保管・運搬・処理過程での環境影響予測も行われていない。関電と大阪市は、PCB混入絶縁油の、保管・運搬・処理過程・処理後の排出処分などのすべてにわたって、ダイオキシン類をふくむ環境影響評価をおこなうべきである。 なお、東京電力の横浜市内でのPCB混入絶縁油の処理施設建設では、ダイオキシン類の1年間の現況調査が行われ、東電が環境影響を予測し、横浜市有害産業廃棄物処理施設評価委員会がさらに1年かけて、その評価をしている。

2)平成2年から今日まで10年以上も、住民に何らの説明もなく「PCB混じり絶縁油」が保管されてきた桜島埠頭石油タンクの「空気穴」からは「気化したPCB・コプラナPCB」が漏れ出ていた(「空気穴」には活性炭も装着されていなかった)にもかかわらず、これで安全であったのかは住民に対してまったく説明がされていない。
 さらに今後、絶縁油を石油タンクからタンクローリー車に移す際や、タンクローリー車から貯蔵タンクに移す際に、「気化したPCB・コプラナPCB」が漏れ出る(少なくとも両方で、毎日、絶縁油72klに相当する72m3のタンク中の空気が押し出される)が安全なのか、十分な説明がなく、安全審査をやり直すべきである。

3)「国が認証したPCB無害化処理技術」と言えども実験室での実証実験にすぎず、この技術を、いきなり処理規模約20倍の「工場」(絶縁油リサイクルセンター)で、24時間連続実用運転することには、幾多のリスクが伴うことは明らかである。
 処理技術そのものの安全性確認はもちろん、例えば関電は「反応器の250度はそう高くはない加熱程度だ」と説明しているが、絶縁油の沸点は270度であり、爆発の恐れなしとは言えないのではないか。さらには、アルカリ分解材として使われる「カリウム ターシャリー ブトオキサイド」は水との反応性が高く、これも火災や爆発の危険性も考えられる。こうした危険性も含めて、「工場規模」での「24時間連続運転」での、安全性と安全対策を予測評価し、住民への情報公開と住民参加による検討を保証するべきである。(ちなみに本技術開発に関する詳細な報告が全面的には公開されておらず、第三者の専門家が検討できるデーターが公開されていない)
 変圧器容器リサイクルセンターについても、「残油抜き取り室」や「解体室」は「負圧」体制になっていない点や、「三つの洗浄室」の「負圧」効果が実証されているのか、洗浄溶剤が何かも示されていない、などについても十分な説明と安全確認が必要である。
 なお、東電の横浜処理施設では、この点でも、1年間は実証実験と同一規模での工場運転を行い、2年目から6.6倍の規模での工場運転を行うとしている。

4)関電は、石油タンクからの「気化したPCB・コプラナPCB」の漏れ出る濃度や、そのダイオキシン等価毒性評価の数値を、口頭で一応は説明している。しかしこれは、石油タンク上部空間のPCB濃度については実測ではなく計算値であり(その計算値の設定温度も不明なもの)、その上「関電絶縁油の中のコプラナPCBの含有量を調べて、それをダイオキシン類として等価毒性評価計算した」実数値ではなく、「PCBの一商品種であるKC−300(カネミクロール300)の、コプラナPCB含有量や、それをダイオキンシ類として等価毒性評価計算した」数値で推計したものであり、言わば二重の「理論推計値・借り物推計値」である。
 KC−300でのコプラナPCBの含有量は1%とされているが、国の資料によってもPCBの商品種類によってコプラナPCBの含有量は1〜15%の実例があるとされている。従って関電は、石油タンク上部空間のPCB濃度・コプラナPCB濃度の実測、絶縁油中のコプラナPCBの含有割合やダイオキンシ等価毒性評価の実測数値を明らかにすることを求める。

5)関電は、石油タンクからのダイオキシン類漏れ濃度について、「理論推計値・借り物推計値」での0.43ピコgTEQ/m3の数値を、「ダイオキシン類の大気排出基準」の0.1ナノgTEQ/m3(100ピコ)と比較して安全だと合理化しようとしている。しかしこれは全く比較できないものである。「ダイオキシン類の大気排出基準」は、焼却施設の排ガス中のダイオキシン類の排出基準であって、保管されているダイオキシン類汚染物からの排出基準ではない(ダイオキシン類対策特別措置法 施行令第1条)。ダイオキシン類汚染物からの排出基準はまだ法定されていない。
 一方で、「ダイオキシン類の大気環境基準」は0.6ピコgTEQ/m3である。此花区役所での平成11年度ダイオキシン類測定値は0.11ピコgTEQ/m3であり、「石油タンク絶縁油から漏れ出るダイオキシン類」が環境を悪化させることは明らかである。さらに、石油タンク周辺でのダイオキシン類の現況調査値や、石油タンクからの漏れ出るダイオキシン類の実測数値によっては、バックグランド値と上乗せ値の合計で、大気環境基準を越えることも十分考えられる。

6)以上のすべてについて、大阪市の環境部局が、関電に調査と予測を求め、その評価をすることを求める。
 大阪市環境事業局は、産業廃棄物処理施設としての「ミニアセス」を行ったと説明しているが、絶縁油リサイクルセンター内の絶縁油貯蔵タンクの一部空気穴からでる「気化したPCB」を問題にした程度であり、ダイオキシン類などの調査・予測や引火、火災、爆発などに対する安全対策の明示などは求めず、評価もしていない。横浜市と比べてさえ極めて甘い態度と言わなければならない。  
 また大阪市環境保健局は、大阪市環境アセスメント条例で対象にしているのは、廃棄物処理施設の「焼却施設」であり、焼却施設ではない「ダイオキシン類の化学処理施設」や「保管施設からのダイオキシン類の漏洩」などは、条例の対象ではないとして、環境影響評価をしていない。大阪市の環境アセスメント条例は平成10年4月に制定されたものであり、その時点ではダイオキシン類の化学処理方法や処理施設は知られていなく、ダイオキシン法の中でコプラナPCBがダイオキシン類に指定されたのも本年1月である。市条例対象になっていないことをもって、アセス対象施設ではないと言うのは、大阪市の環境に責任を負う部局としては、全くの責任放棄と言わなければならない。市条例のアセス対象に加え、アセスを実施するべきである。
 大阪市の姿勢は、極めて大量のダイオキンシ類汚染物の保管施設や、その処理施設にたいする、市民の目線から見ての批判には到底耐え得るものではない。

7)東京電力のPCB混入絶縁油処理施設は、 分散処理をしている(横浜市施設では神奈川県内のもの、千葉県では千葉県内のもの、変圧器容器はさらに別施設)、 処理施設はすべて東電の自社用地に建設している(関電の処理施設は、大阪市港湾局用地を桜島埠頭株式会社に貸し、桜島埠頭が関電に土地を又貸しして建設する)、 横浜市処理施設は人家からの距離2kmであるりに対し、関電は、至近民家200m、市営住宅などから700mである。この違いについても関電は説明しなければならない。
 なお、リサイクル施設は、年間八〇〇万人以上の利用客が見込まれるユニバーサルジャパンから1km、USJ内飲食店で提供する料理の調理施設から400mという点も考慮されなければならない。

8)東海村JCO事故の教訓などからもこのような危険物を扱う際には、運搬からリサイクルの全ての工程で、安全作業マニュアルを作成し、下請け業者ではなく、関西電力が直接責任をもって管理を行うことや、作業員自身の安全確保策なども、詳しく提示するべきである。

9)地域住民、桜島地域企業従事者に対して、以上についての文書説明も含めて十分な説明を行った上で、合意をうるまで建設を強行しないこと。