暮らしの焦点
深刻化する野宿者・ホームレス問題
−日本共産党大阪市議団のとりくみ−
日本共産党大阪市会議員 谷下浩一郎
■ 1万人超える大阪市の野宿者
大阪市は1998年8月に、大阪市立大学に委託し、「野宿者概数・概況調査」を行いました。これは、市立大学、府立大学などの教員、学生、院生など延べ758名を動員し、4日間にわたって夜間の目視調査で行い、夜間において調査不可能な地域や事例は昼間調査で行うという、かなり徹底した調査でしたが、全市域で8660人の野宿者が確認されました。その後も数は増加の一途をたどり、現在では1万人をはるかに超えていることは確実です。厚生省が昨年12月にまとめた調査結果によれば、全国で2万人を超えているということでしたから、大阪市の野宿者数は全国最大です。
これらの人たちは、暑さ、寒さによる健康破壊や、赤痢、結核の感染による命の危険にもさらされています。また、路上で襲撃され、重傷を負わされる事件も起きています。まさに大阪市が抱える最大の人権問題の一つです。
大阪市に1万人以上といわれる全国最多の野宿者が存在しているのは、長引く不況、リストラのあらしという全国的な要因とともに、大阪市の場合は、釜ヶ崎に全国最大の日雇い労働市場が存在していることを抜きには考えられません。西成区の釜ヶ崎(あいりん地域)は、全国一の日雇建設労働市場として、東京都・山谷地域や神奈川県・寿地域を大きく上回る規模です。この地域には、22000名の建設日雇い労働者がいると言われていますが、求人数は、不況の影響や労働者の高齢化、建設産業の機械化等の影響でこの間、阪神淡路大震災のときを除いて激減しています。バブル経済期であった1989年の187万人(年間延べ)をピークに、98年度には58万人にまで、約3分の1にまで減少しています。83年には雇用保険手帳所持者の平均年齢が46.4歳であったのが、99年には54.5歳と高齢化がすすんでいますが、真っ先に日雇い労働市場から排除されるのが、高齢労働者です。
昨年大阪市が行った「野宿生活者聞き取り調査」によると、聞き取り調査を行った野宿者のうち、あいりん地域での就労経験がある人は6割近くにのぼり、「あいりんの日雇い労働者は、あいりんでの仕事に就けない状態が続くことが、野宿生活に直結することが読み取れる」と同報告書は述べています。
■ 問題の解決をめざす党市議団
産業政策の転換によって、あいりん地域の日雇い労働市場には全国から労働者が集中し、60年代は港湾荷役、70年代は臨海コンビナートを中心とする製造業、80年代からは建設業と、それぞれの産業の発展に貢献し、そして高齢化し、いわば「定年」の時期を迎えているのです。多くの人は、退職金も年金もなく、失業=野宿、そして健康を害し、行き倒れという道を歩もうとしているのです。産業政策と社会保障の貧困の結果といえるこの状況を放置することは絶対にできません。
同時に、この1万人を超える野宿者は、公園など、市民が本来憩いの場として利用すべき場所に野宿をしているのですから、それを利用する市民や周辺住民にとっても、大きな問題になってきています。最近大阪市は、住民の反対運動が続く長居公園内の野宿生活者向け仮設避難所の着工を強行しました。その際住民との間で小競り合いを起こし、テレビ・新聞でも大きく報道されました。市民や野宿者自身の合意もないのに、一方的に強行しようとしたところに根本的な混乱の原因があります。長居公園は、市が招致を目指す2008年五輪の際にはサッカー会場などに予定され、今年2月には国際オリンピック委員会が視察することから、「大阪五輪のため」と市民から批判の声が上がっているのも当然です。また、野宿者自身にとって、人権に配慮し、地域住民にも支持される解決方法を、よく当事者の意見を聞いて実施していくことこそ必要です。日本共産党は、そうした立場から、野宿者問題の抜本的解決のために、度々政策提言を発表し、その実現に奮闘してきました。
〔就労対策〕
第一は、なんといっても就労対策です。厚生省、労働省(現在の厚生労働省)など5つの関係省庁と東京都、大阪市など5都市でつくる「ホームレス問題連絡会議」も、今日の現状について、「経済・雇用情勢の悪化等」がホームレスを増加させていると分析しています。ところが政府は、企業の解雇を野放しにするなど「雇用情勢の悪化」に拍車をかける始末です。こうしたなかで、党議員団として、94年から実施されている「高齢者特別清掃」事業の拡大を一貫して要求してきました。これは、大阪府と大阪市が55歳以上の高齢者に対して、軽作業の就労の場を提供するという事業ですが、府・市合計で94年度延べ4680人が2000年度には延べ50055人(推計)と、拡大してきました。しかし、年間登録者数も94年度の940人から2000年度は2815人と急増しているため、1人当たりにすると年間就労できるのは、わずかに1カ月で2〜3回程度と、「せめて1週間に1回くらい仕事が回ってきたら、5700円の賃金で1日はドヤに泊まって、風呂に入れる」という労働者の切羽詰まった願いはかないそうにもありません。最近の議会では他の会派からも「失業対策事業が必要ではないか」という声が出ています。いまこそ、自治体と国の責任で雇用の創出、確保に努めるべきです。
〔生活保護行政の改善〕
第二は、生活保護行政の改善です。大阪市としては、憲法第25条と生活保護法にもとづいて、必要な人に生活保護を適用し、憲法に保障された最低限度の文化的な生活を住民と滞在者に保障するという地方自治体の義務を果たすべきです。ところが、大阪市は、高齢者や病気の人は別として、失業によって野宿を余儀なくされている人には、「まず就労の努力を」と言って、生活保護の適用を拒んでいます。しかし、これらの人は「働けるのにさぼって働いていない」わけでは全くありません。大阪市の聞き取り調査でも8割の人が廃品回収等の仕事をしているのです。それでも収入はごくわずかなため、野宿しているのです。もちろん高齢・病気で働きたくても働けない人には、保護の適用がすぐにでも必要です。
また、病気になった人に対しても、大阪市は退院即保護打ち切りという冷たい保護行政を行い、大阪府に対して不服申し立てが相次いでいますが、大阪府からは何度となく是正の指導がされています。市民の運動で一定の改善はされていますが、このような法律にも違反し、是正を何度も勧告されるというような異常な生活保護行政を即刻改めることが緊急に求められています。
こうした日本共産党議員団の生活保護行政の改善を求める論戦と、関係者のねばり強い運動の結果、最近では退院即保護打ち切りという冷たい保護行政が一定程度改善されてきました。また、野宿者や地区労働者には収容保護しか認めてこなかった大阪市ですが、最近若干の例ですが、敷金を出して居宅保護を認めるなどの改善が見られます。
■ 求められる実効性ある緊急対策
〔宿舎の確保、食事と医療の提供〕
日本共産党議員団は、就労の場の確保と、生活保護の適用によって、野宿者問題の抜本的解決をめざしつつ、緊急に手をさしのべるために、宿舎の確保、食事と医療を提供することを求めています。
その一つとして、ドヤ券(簡易宿泊所への無料宿泊券)の発行や「福祉アパート」化への行政の援助を提案してきました。あいりん地域での就労経験がある人は野宿者の6割近くにのぼりますが、これらの人にとっては、あいりん地域は第二の故郷です。地元では、空き部屋の目立つ簡易宿泊所の一階部分を共同リビングにするなどの「福祉アパート」として再生し、野宿者の人を受け入れ、居宅での生活保護を可能にする取り組みがすすんでいます。野宿者にとっても安心して生活できる場所であり、あいりん地域にとっても、もともと住んでいた地域ですから一番野宿者を受け入れやすく、街に活気を取り戻すこともできる一石二鳥のことです。さらに居住条件を改善して、「最低限度の文化的生活」を保障するものになるよう、大阪市に対して積極的な支援を求めています。
〔感染症をなくす保健・医療対策〕
1998年夏には、西成区あいりん地区で100名を超える赤痢患者が発生しました。日本共産党は、民生保健委員会でこの問題を取り上げ、「あいりん地区内の公衆便所、手洗い施設、シャワーなどを増設すべきだ。清掃・消毒など引き続き徹底せよ」と要求しました。質疑のなかで、赤痢の疑いのある患者が薬の投与だけでまた野宿生活に戻り、検便の結果赤痢の保菌者とわかっても再来院しない患者が11月4日時点で15人もいたという驚くべき事態も明らかになりました。これに対して「体制が弱いからこんなことになる」と指摘し、緊急対策として、社会医療センターへの応援体制と「あいりん総合センタ−」の1階トイレの夜間開放を府・市協調して実施することを強く求めました。
また、あいりん地域の結核罹患率は、全国平均の50倍と大阪市が結核異常事態宣言を出している大きな要因の一つとなっています。
〔建設業界への対応を改善させる〕
1998年10月、一般決算委員会で野宿者対策の重要な柱の一つとして建設業退職金共済制度(建退共)の厳正な実施を市長に求めました。「現在の不況の影響を日雇労働者はまともに受けている。水道局や交通局が発注している公共事業で建設業退職金共済制度(建退共)が厳正に実施されていない。働いた日数で1日300円支払われることになっており、施工者は工事代金の中に証紙代金も入っており免税扱いになっているにもかかわらず、労働者に渡っていない。市長はどう思うか」と質問しました。磯村市長は「建退共制度は良い制度である。発注者としては資金を渡している。それが機能していないとなればどこに問題があるか、建設業退職金共済機構に申し入れる」と答弁しました。
■ 全面的で抜本的な対策を迫る
昨年11月の一般決算委員会では、大阪市が市長を本部長に野宿生活者対策推進本部を99年7月に立ち上げたにもかかわらず、臨時宿泊所(定員600人)の開設や国の事業である「自立支援センター」の開設(3ヶ所、定員280人)、国の「緊急地域雇用特別交付金」を使った清掃事業の拡充などにとどまり、全面的で抜本的な対策をおこたってきたことを批判。雇用対策の拡大、簡易宿泊所の有効活用、生活保護の適用拡大などの全面的な対策を拡充するようあらためて強く求めました。
■ あいりん地域のとりくみ
また、私の地元である西成・あいりん地域では、地元の日本共産党西成浪速地区委員会(現在木津川南地区委員会)が、地域のみなさんや労働組合、民主団体と共同して、「不況打開・明るい街づくりをめざす西成浪速実行委員会」を結成し、アンケートを実施したり、懇談会を開催して、野宿者問題を解決するための合意と方向性をさぐってきました。
大阪市のなかでも最も野宿者の集中する地域ですが、98年12月に実施したシンポジウムでは、地域住民からも野宿者を排除することを求めるような発言は全くなく、仕事を増やすなど、野宿者問題の抜本的な解決を求める声が圧倒的でした。そして、自営業者、とりわけ日雇労働者を顧客としている飲食業では「売り上げは以前の半分以下」との深刻な意見や「ドヤ(簡易宿泊所)は経営難で、宿泊券の交付は、野宿者にも経営者にも歓迎される」と、党の提案に対する賛同の意見も多く出され、大きな成功をおさめました。一方、自民党は「京都に避難所をつくれ」(99年3月12日の演説会)「せっかく西成から去ってちらばったのに、共産党は、野宿者をすべて地区に集めようとしている」などと、人権を無視し、野宿者を一方的に排除する姿勢を示し、市民の批判をかっています。野宿者問題を根本的に解決しようとせず、それぞれの議員が自分の地元から野宿者を追い出そうとして汲々とする姿は、この党の政策能力能力のなさと無責任さを端的に現しているのではないでしょうか。
■ 重い政府の責任
政府も、ようやくホームレス対策にとりくむ姿勢をしめし、大阪市でも国の補助金を受けて自立支援センターが3カ所で開設されるなど、前進が見られます。しかし、1万人を超えるホームレスの規模からすれば、対策は緒についたばかりです。一地方自治体による対応には限界があることは、先に紹介したホームレス問題連絡会議のとりまとめで政府自身も認めていることです。
なによりも、政府がやらなければならないことは、抜本的な就労対策です。ホームレスの人は決してさぼって仕事をしていないのではありません。大阪市が実施した99年の聞き取り調査では、8割が仕事をしており、そのうちの9割が廃品回収を行っています。廃品回収をしている人のうち8割は月20日以上就労しています。それも、廃品回収という実態を反映して就労時間は午前1時から9時までが最も多いのです。それでも収入は3万円未満が半数を超え、5万円を超える人は2割未満です。これでは、野宿するしか方法がありません。この人たちに最低限の文化的生活を保証する仕事を行政、とりわけ国の責任で早急に作り出すことを求めたいと思います。そして、就労したくてもできない高齢者や病気の人などには、生活保護を適用して、生活を守ることです。このような抜本策を実現し、一刻も早く問題を解決するために、私たち日本共産党市会議員団もいっそう奮闘する決意です。