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第2期工事推進の根拠はすべて崩れた、

残るは経営不安、巨大な負債、地盤沈下、

あらためて第2期工事の見直しを求める
(2004年10月29、30日 「しんぶん赤旗」掲載)
 

日本共産党大阪市会議員 稲森豊

関西国際空港の第2期工事の可否が来年度予算編成に向けて、大詰めを迎えている。この問題点については本紙連載の先刻「検証・関西空港」あるいは10月7日付け全国版でも詳しく解明されてきたところです。
大阪市も第2期工事に300億円近い公金を投入することもあり、私はこの関空第2期工事推進については一貫して疑義を唱え大阪市議会においても見直しを主張してきた一人として、このまま看過すれば大きな禍根を残すという思いからあらためて関空第2期工事の致命的ともいえる問題点について率直な意見を述べたいと思います。

関空会社は第2期工事の必要性の主要な根拠として航空需要と国際ハブ空港として最低の機能として2本の滑走路の必要性を主張してきました。
実はこの9月2日私は大阪市会財政総務委員会委員として、中部国際空港建設現場を行政視察した折、衝撃的な事実を知らされたのです。
中部国際空港株式会社の建設事務所で企画グループの責任者から「関空さんからいろいろ学ばせていただきました」と中部国際空港建設に当たり空港へのアクセスや地盤沈下など海上空港建設の技術上の問題や、今後の需要予測、経営の問題などあらゆる面で関空の失敗の教訓を生かしたとの説明を受け、中部国際空港が完成すれば確実に関空は打撃を受けると実感させられたのです。他会派の委員も同様の感想を語っていました。
加えて偶然、次の視察先の静岡で現地の地方紙9月3日付けで「共同通信社」が国内外旅客便37社と貨物便5社の乗り入れ航空会社42社に書面でアンケートをした結果、39社から回答があったが「関空をハブ空港と位置付ける」と回答した会社がゼロで「関空は他の基幹空港との競争に負けつつあるといえそうだ」と論評した記事を目にしたのです。
いまや関空は航空需要の低迷と同時に最後の第2期工事推進論の根拠としてきた国際ハブ空港としての位置付けも利用者である航空会社から完全に否定されているのです。大阪では主要紙で報道されていないので問題とはなっていないようですがこのような重大な事態を目の前にしてなお第二期工事を求める関空会社や来年度予算要求を決めた国交省、それに公金を投入し支援する大阪府や大阪市の態度はきわめて無責任で世間を欺くものといわざるを得ません。
航空需要についてはいえば関空事業は「三馬鹿事業」と揶揄されるごとく採算性を無視した過大投資であることは衆目の一致するところであります。関空会社は将来、航空需要が伸びると強弁し、大阪府や、大阪市もこれに同調し「USJが開業すれば需要は伸びる」「東南アジアから乗客が増える」「2007年度には離発着数が16万回に達し滑走路の処理能力はパンクする」など場当たり的な説明してごまかしてきました。しかし実態は先の本紙特集でも解明されたように関空への航空機離発着回数は2003年度は約10万回と低迷し国交省も当初予測年間16万回を13万回に正式に修正せざるを得なかったように大きく下回っています。
しかも今後将来にわたって関空の航空需要が増える見通しもまったく無く、むしろは減少する可能性の方が濃厚なのです。
来年2月に7日開港する中部国際空港は次のような国際線の需要見通しをたてています。
関空の二分の一のコストで空港島が建設されているわけですから、成田や関空よりも着陸料が安く設定されることは確実視されており関空の国際線の需要を脅かすことは必至です。また国内線も中部空港は開港初年の2005年は710万人(現在稼動中の名古屋空港は約650万人)を見込んでおりアクセスも名古屋駅から電車で28分という利便性は関空よりも有利な立地となっています。
加えて同時期に開港予定の神戸空港が開港初年度に国内線319万人を見込んでいます。これら旅客だけでなく当然貨物便も影響を受けることになります。新規開港の2空港の需要見込みがある程度下回ったとしても関空に否定的な影響を与えることは確実で、関空は今以上経営困難に陥ることはことは必至です。
東京・博多間で新幹線「のぞみ」の停車駅数より多い空港数となるような無茶な国の空港整備行政のもとで過当競争を無視してのバラ色の売込みや滑走路は2本が不可欠というような建前論で経営破たんのリスクのきわめて高い第二期空港建設は許されません。

もう一つの懸念。
地盤沈下と空港の維持の問題

経営問題と併せて関空島の持つ宿命的な欠点は地盤沈下の問題です。
地盤沈下というような専門的な分野はなかなか解明が難しいので関空の言い分をそのまま鵜呑みにする傾向ですが、私は建築学を学び、その関連で地質学や土木工学に興味を持ってきた関係から、地盤沈下について特別の関心を払い、空港島建設にかかわってきた技術者や土木の専門家の諸説を調べるなかで、航空需要と同様関空の将来にとってきわめて重大な問題いわば命取りになりかねない問題であると考え議会でも再三追及してきました。
関空会社は問題なしと主張しているが信用できるのか、地盤沈下は果たして楽観視して良いのかという点です。
アカデミックな立場から軽率に見解を述べることに慎重な専門家もこと関空の地盤沈下に関しては厳しい発言をしています。
とりわけ私が注目したのは、関空第一期工事において「空港島の土質に関する検討調査委員会委員」として埋め立てに中心的にかかわってこられた土質工学とりわけ地盤沈下問題の権威者である大阪市立大学名誉教授三笠正人氏の見解です。
教授は関空が開港された直後の平成8年12月11日海遊館ホールでの技術講演で次のように述べておられます。議事録を少し引用させていただきますと「(第一期空港島の)埋め立て層の厚さが33m、沈下予想が11mと聞くと外国人はギョッと目をむき「オー・クレージー」といいます」「沖積層はサンドドレーンを打ちますから工事が済むと90%の圧密が終わっているのでそれ以上沈下する心配はまったく無いが、洪積層はそれから何十年も沈下し続ける。その見通しがなかなか立たないのです。実際に50年持てばいいというのが今の設計方針になっています。この一期あたりが常識的に見て埋め立ての限界じゃないかと思われるのですが、2期ではこれを超えてやろうという、これは驚きですね。」「実測沈下が最近になって予想曲線よりも下がる傾向を見せ始めたのはいっそう不気味な不安材料です。これまでの圧密試験は長期圧密といってもせいぜい数週間程度。そういう試験結果を用いてほとんど経験のない洪積層の何年、何十年にもわたる圧密挙動を正確に予測できればむしろラッキーというべきでしょう。」と述べています。
また同じく同検討調査委員会委員である京都大学名誉教授赤井浩一氏は2000年3月10日関経連特別講演会「関西国際空港の建設と海底地盤の難問題」において次のように語っています。
「関空のように極めて限られた施工期間に莫大な土量を扱う沖合いの埋め立て工事は世界に例がない。・・関空は第一期工事時点でも一平方メートルあたり45トンの自重がある。第二期はさらに増す。これまで沈下していたのは洪積層の上部であり、中部以上深い層はまだ目を覚ましていない。これがいつ目を覚まし沈下を始めるのか予断を許さない。」(「経済人」2000年6月号掲載)
土木の専門家の認識は以上のようにシビアーなのであります。
土木学の教科書でも「沈下の計算ではその誤差は沈下量における計算よりも圧密時間の算定において著しい」(彰国社「土木工学」)と何時沈下が収まるのかを予見することの困難さが述べられているのです。
ちなみに建設中の中部空港は関空の教訓に学び、水深6m、海底5m程度の土壌改良で地盤沈下などまったく考慮する必要のない場所を選んでいます。
このことから私が言いたいのは関空が言う「沈下は予想範囲内で、沈下量は年々減少している」「第2期工事では地盤沈下のメカニズムを十分考慮している」という見解は洪積層の沈下を軽視し、土質工学の定説をも無視したまったく科学的根拠のない不確実な主張であるということなのです。
関空のホームページで2007年ころには現在使用中の滑走路の大幅な改修工事が必要で夜間の閉鎖だけでなく代替の滑走路が必要であるということをほのめかす見解が発表されています。これは通常の補修でなく一時、滑走路を閉鎖しなければならないような事態を想定したものではないでしょうか経営状態も新規2空港の開業により決定的な破綻が明らかになる。だからそれが明らかにならない今のうちに予算を確保し駆け込み工事をしておかなければとんでもない事になる。私は関空が2007年までの供用に執拗にこだわる真の理由はその辺にあるのではないかと推察しています。事実を先行させ抜き差しならぬ事態になると「いまさら引き返せない」と開き直り追認をせまるというやり方はもうごめんです。

さらに防災上の危惧であります。
関空の発表のように沈下量が毎年3センチ減少したとしても15年中に14センチm沈下したのですから地盤沈下が収束する平成20年までに今後平均26センチm程度の沈下が生ずる計算になります。この予測自体先の専門家の指摘から見ても裏づけの乏しいものですが、仮に幸いにも関空の説明どおり沈下が収束するとしても空港島の海水面から一番低い箇所は地盤高は今年6月現在1.32mで滑走路の最も低い箇所は3mと発表されていますので最終的に地盤高はそれぞれ1mあるいは3mを下回ることになると計算されます。
台風に伴う高潮による浸水とともに、近い将来確実に発生すると危惧されている東南海・南海地震による震動によって地滑りや液状化など不測の事態は起きないのか、あるいは東南海・南海地震想定し、大阪市防災会議が策定した「東南海・南海地震防災対策推進計画」によれば「四国沖でマグネチュード8、6程度の地震が起きた場合、大阪港へは約2時間の到達時間で最大波高二、九mの津波が押し寄せる」と想定されているが、関空島はどうなるのか?
国際空港が水没したというような事態にならないとも限らない。これが今の関空島のおかれている実態ではないのかと危惧するわけです。
いずれにしても関空は存在し続ける限り沈下対策にエンドレスに費用がかかり続ける空港と認識しなければならないのです。
前述の三笠正人氏も「2期工事よりもいまは一期空港島の維持・保全に力を入れるべき」と述べておられます。

以上述べたことからの私の結論は次のとおりです。
完成しても将来発展も見込めず、採算性のめどの無い、際限のない維持費用をエンドレスに投入し続けなければならないような「欠陥」空港建設に大切な税金をこれ以上投入するな。立ち止まって見直すべきという事であります。