扶桑社教科書不採択の経過
市民の意見反映、教育委員会会議を公開
形成されたルール
日本共産党江川繁・大阪市議(2001年8月)
第21回大阪市教育委員会が7月27日に婦人会館で開かれ、2002年度小学校・中学校の使用教科書が採択されました。会議は公開で開かれました。しかし、40名を超える傍聴希望者に対し抽選により20名に制限されました。わざわざ遠くから会場へ来ながら傍聴出来なかった希望者からは批判の声があがりました。
社会的に物議をかもしていた、侵略戦争を美化する「新しい歴史教科書つくる会」の「兜}桑社『中学校歴史教科書』・『公民教科書』」は採択されませんでした。採択されたのは大阪市内8地区のうち、歴史教科書では「大阪書籍梶v(7地区)と「教育出版梶v(1地区)のものがそれぞれ採択されました。
大阪市の2002年度使用教科書採択にあたって教育委員会会議はのべ4回開催されました。5月22日の会議では、「2002年度使用教科書の採択の方式について」が決定されました。その改訂の主なポイントは第1に文部科学省の指摘等も受けて、従来は選定委員会から各地区、各教科1社だけの推薦だったのが、今後は複数社に、通常は2社ですが意見が多く分かれた場合は3社に変更され、5名からなる教育委員の選択権限が拡大されたことです。第2に、選定委員会(28名)のメンバーに保護者代表を2名から4名に増員し、父母の意見の反映を一定拡大したことです。なお、大阪市立高等学校、養護諸学校の使用教科書は従前と同じく各学校ごとの推薦する教科書を教育委員会会議で承認する制度になっています。
この決定方式に基づいて、6月12日の会議では「教科書採択にかかわる準備状況について」報告。6月初旬から各委員会が設置され、学校現場の教職員の意見を反映しながら1月余り調査、研究、資料の作成が行われました。
7月19日の教育委員会議では、この日教科書採択が発表されると考え傍聴に約40名の市民がかけつけました。結局傍聴できたのは20名でした。選定委員会が各調査に基づき、自らの調査研究も加味して複数社を選び、推薦理由もつけて教育委員会に答申する書類を提出しました。若干の質疑があった後、次回会議に持ち越されました。
いよいよ最終決定となる7月27日の会議では、冒頭に採択にあたっての方針・原則が確認されました。主な観点は、第1に選定委員会の評価の高いものを選び、第2に、その評価が分かれている場合は、中央調査委員会の評価を尊重する。また、学校調査委員会で学校数の過半数の賛同を得ているものはそれを優先する。なお、選定委員会の推薦したもの(2〜3社)と異なった場合は教育委員会としての選定理由を付する、などです。
その方針・原則に基づいて、まず、小学校の国語(第1地区)から審議・採択が行われました。具体例で示せば、国語の第一地区は選定委員会が推薦した「学校図書梶vと「大阪書籍梶vのうち総合的評価が高い「学図」と決定しました。また、国語の第6地区は、評価が分かれたため学校の賛同が多い(39校中22校)「光村図書出版梶vが意見を付して選定されることになりました。
次に、中学校の教科書採択に移り、同様の方針・原則に基づき、国語、書写、地図、社会(地理、歴史、公民)、数学、理科(第1、第2分野)、音楽(一般、楽器演奏)、美術、保健体育、技術家庭(技術、家庭)、英語が審議、採択されました。
扶桑社教科書に1つも推薦なし
関心の高かった社会(歴史的分野)の採択にあたっては、8地区の中で「大阪書籍梶vの推薦が多く、その他では「教育出版梶v「東京書籍梶v「日本書籍梶vの推薦地区がありました。
この点について、社会的関心が高かったこともあり小島孝治教育委員長より「選定委員会からの『兜}桑社』の推薦が一つもない理由はなぜか」との質問が出ました。これに対して選定メンバーの人から「『兜}桑社』の教科書は知識の量が多く、子どもたちに理解が困難な言葉が多い。また、学習するための解り易い調査資料が少ない」などの回答がありました。さらに小島教育委員長は「教育委員の中にもこの歴史教科書に対して国際協調を損なう面がある教材であるとの意見があった」との紹介がされました。このような審議経過を経て大阪市の教科書採択が行われました。
教育の民主化に大きな手がかり
今回の教科書採択の一連の経過を見ると、様々な要因が影響し合い、その中から積極的な教訓を引き出すことができると思います。第1に、父母、教職員や市民の意見を一定反映することができる今後の教科書採択の基本的ルールが形成されたことです。このルールをさらに充実させ、よりよい教育、子どもや市民のための教科書採択を進める足場となりました。第2に、昨年6月から大阪市教育委員会会議が公開されるようになったことです。多くの市民の傍聴参加の下に、一層公開度を高め、市民のための開かれた教育行政を進める契機となりました。傍聴者数の枠も当初は10名でしたが、20名にまで傍聴者席が増えました。また、8月15日(文部科学省への報告期限)以降は審議経過、作成資料の多くは請求すれば公開される予定です。第3に、教育委員会会議は、従来、ともすれば事務局中心に提案され承認されてきたものが、5名の教育委員の合議で決定される事例が増え、教育の自治本来の役割に一歩近づく契機となっています。最後に、今後の方向として、父母、教職員、市民の力で教科書採択だけでなく、切実な教育要望の実現のために、開かれた教育行政、教育の民主化への大きな手がかりが生み出されたものと思います。
(従来)
教 育 委 員 会 諮問| |答申 教科用図書選定委会 | | | | 地区専門委員会 地区調査委員会 学校調査委員会 中央専門委員会 |
(2002年度)
教 育 委 員 会 諮問| |答申 教科用図書選定委会 | | | 地区調査委員会 中央調査委員会 学校調査委員会 |
【高等学校及び盲・聾・養護学校使用教会所採択方式】 | |
大 阪 市 教 育 委 員 会 C採択 A諮問| |B答申 選定調査会(各学校)@設置
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